司祭フェリス 2008年06月10日

モンテ・クリスト伯において、
最も尊敬すべき人間を挙げよ、といわれれば、
僕はフェリス司祭を挙げるだろう。
そう、この人の人生の終局はまさに、ダンテスのためにあったと言ってよい。

彼はまず、無実の罪で牢獄に繋がれたダンテスに、
3年以上も続いた独房囚の味わうあらゆる不幸によって
餓死する道を選んだダンテスに、生の希望を与えた。
自由をあきらめていたダンテスに、脱獄という可能性を教えた。
孤独に気が狂いそうだったダンテスの、苦しみを共に慰める友となった。
4年かけて作った、穴を掘るための道具を与えた。
紙とインクとペン、そして明かりの作り方を示した。
無知のために陰謀に陥れられたダンテスの前に、その正体を暴いて見せた。
自分の持っている万般の知識を教授した。

「わかりました。わかりました!そして、わたしもここに残りましょう。」
「主の御名によって誓います。私は、あなたがお亡くなりになるまで、
決しておそばを離れません!」

最後の贈り物として、彼はダンテスに莫大な財宝の在処を教えた。
そして彼は、自らの死を以って、ダンテスに牢からの自由を与えた。

そうか、ダンテスが彼に出会ったのは、絶望の中希望を見出したのは、
僕の今の年だったのか。

「わたしにとってのほんとの宝は、それはあなたがいて下さるということです。
たとい、あの獄丁がいたにしても、日に5時間6時間ごいっしょにいられます。
宝とは、あなたが私の記憶の中に植え付けてくだすった言葉、あなたがお持ちの深い学殖、またそれを明瞭な原理に帰納してあれほどわかりやす示してくだすったいろいろな学問、
それこそわたしの宝なのです。
これによって、あなたはわたしを富めるもの、幸福なものにしてくださいました。」

彼がいたのは、本のページにしてわずか150ページ。
1巻の半分にも満たない。
しかし、彼こそがダンテスの運命を導いたのだ。