ダンスダンスダンス (2006.10)

「あんた幸せにはなれないかもしれない、と羊男が言った。
 だから踊るしかないんだよ、みんなが感心するくらい上手く。」
村上春樹「ダンスダンスダンス」より

友達の日記にコメントを残そうと思ったら消えてしまった・・・
まぁここでかわりにそんな感じの内容を残しておこうと思います。

村上春樹の長編小説の中で、特に印象的に残る1冊この本。
最初はなんだこの題名は?とか思ったが、題名と内容の関連性が分かるにつれてこの題名ゆえにこの本が好きになった。

内容から言えばはっきり言ってストーリーはあまり面白くなかった。
村上作品でいけば「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」や「ねじまき鳥クロニクル」、「海辺のカフカ」などの方がよっぽど面白い。せつなさで言うなら「ノルウェイの森」なんかも良かったと思う。

さてこの本はデビュー作「風の歌を聴け」、「羊をめぐる冒険」に続く3部作のラストにあたる作品だ。
鼠は死んで、僕はコピーライターとして働いている。それまでに、僕はいろんな大事なものを失ってきた。それを取り戻すために、僕は羊男から踊り続けるしかないと言われる――。
そんな話だ。しかし、これだけの説明ではどんな内容だかさっぱり分からないだろう。興味ある人は読んでもらいたい。

*****

人にはときに振り返って後悔することがあるが、僕もその例に漏れず一日に一度は後悔している。しかもそれが多くの場合、前触れもなしにふと浮かんでくるのだ。そんな時は後悔と羞恥のあまり暴れだしそうになってしまう。

また、時に自分のことを振り返ってみると、考えれば考えるほどに自分が虚しくなっていってしまう。本当はそんなこと望んではいないのに。

この本を読んだとき、どのように生きるべきかを比喩的に学んだ気がする。自分のするべきことは、この場所で自分の役割を精一杯こなすこと。上の言葉ではうまく表現できないが、自分らしく踊れ、といった方がニュアンスとしては近いかもしれない。

羊男との再会でこのように僕は話をする。

「どうすればいいんだろう、僕は?」
と僕は前と同じ質問をしてみた。
「さっきもいったように、おいらも出来るだけのことはするよ、あんたが上手く繋がれるように、やってみる」
と羊男は言った。
「でもそれだけじゃ足りない。あんたも出来るだけのことをやらなくちゃいけない。じっと座ってものを考えているだけじゃ駄目なんだ。そんなことをしてたって何処にもいけないんだ。わかるかい?」
「わかるよ」と僕は言った。「それで僕はいったいどうすればいいんだろう?」
「踊るんだよ」羊男は言った。
「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。
おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。
踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。
意味なんてことは考えちゃいけない。
意味なんてもともとないんだ。
そんなことを考え出したら足が停まる。
一度足が停まったら、もうおいらにはなんともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。
永遠になくなってしまうんだよ。
そうするとあんたはこっちの世界の中でしか生きていけなくなってしまう。どんどんこっちの世界に引き込まれてしまうんだ。
だから足を停めちゃいけない。
どれだけ馬鹿馬鹿しく思えても、そんなこと気にしちゃいけない。
きちんとステップを踏んで踊り続けるんだよ。
そして、固まってしまったものを少しずつでいいからほぐしていくんだよ。まだ手遅れになっていないものもあるはずだ。
使えるものは全部使うんだよ。ベストを尽くすんだよ。
怖がることは何もない。あんたは確かに疲れている。
疲れて、脅えている。誰にもそういう時がある。
何もかもが間違っているように感じられるんだ。
だから足が停まってしまう」
僕は目を上げて、また壁の上の影をしばらく見つめた。
「でも踊るしかないんだよ」と羊男は続けた。「それもとびっきり上手く踊るんだ。みんなが感心するくらいに。そうすればおいらもあんたのことを、手伝ってあげられるかもしれない。だから踊るんだよ、音楽の続く限り」
オドルンダヨ。オンガクノツヅクカギリ。

*****

どんな役割も、どんな仕事も、それ自体に意味はないのかもしれない。自分だって、そうなのかもしれない。
音楽は周りからの期待とか責任とかそういったものかもしれないね。踊りとは、役割や仕事それ自体かもしれない。

大事なのは、どんな音楽で、どんな踊りを踊るかではなく、どんな音楽でも踊ること、どんな馬鹿馬鹿しい踊りでも、ベストを尽くして踊ること。
さればこそ、地から踊りながら湧き出ずるという義なのかもしれない。

願わくばその音楽と踊りが、自分にとって心地よく楽しいものであらんことを。さなくば、それを面白くするだけの力が自分にあらんことを。

さぁ、俺も楽しく生きよう!