Many Coreの時代へ (2006.09)

電子計算機(PC)の性能向上は情報通信に飛躍的な進歩をもたらした。
それはとりもなおさず電子部品の小型集積化に支えられている。

ムーアの法則というプロセッサ(CPU)の性能に関する有名な法則(経験則)がある。
それは「半導体素子に集積されるトランジスタの数は、18ヶ月で倍増する」というもので、
ごく簡単に言えば微細加工技術の進歩によって電子部品がどんどん高性能化していくというものだ。

しかし、現在のCPUの速度向上率はだんだん落ちてきている。
これは以前から予想されていたことなのだが、
加工レベルが原子の数倍から数十倍といった大きさに近づいてきていることで微細加工の限界が近づいているためだ。

さらにちょうど2000年前後からクロックが1GHzを超えたあたりでCPUにはある問題が顕著になってきた。
それは熱と消費電力だ。
熱は機械を不安定にさせるし、消費電力が大きいことは省エネの観点から不経済だ。
それまでも熱と消費電力に対する問題はあったものの、
クロック速度向上による性能上昇が著しかったために必要悪と見なされてきた。
しかし1GHzを超えるあたりから性能向上に対する熱と消費電力の上昇率はだんだん割の合わないものになってきた。
本来のムーアの法則でいくならば現在は5〜7GHz程度まで上昇しててもおかしくないのにもかかわらず、
2〜3年前から最大のクロック数が3〜4GHzで止まっているのも簡単にいえばそういう理由による。

そこで、性能を向上させながらも熱と消費電力を抑える(性能/消費電力比の向上)のために
チップ開発者が考え出したのがマルチプロセッサである。
例えばこれまでのシングルプロセッサをスーパーマンだとすると、
どんなすごい力を持っていても1人ではたくさんのタスクに対応できないようなものだ。
しかもお買い物から悪人退治まで全て自分で行わなければいけない。
それとは対照的にマルチプロセッサではチームワークで戦う。
IntelのCoreDuoはスーパーマンほどではないにせよそこそこ力を持ってる2人による分担作業だし、
SonyのCELLはいろいろできる隊長1人と単純作業に向いた部下8人の共同作業だ。
他にもそれぞれの処理のスペシャリストの組み合わせなども考えられる。

つまり分担作業で能率化することで、消費電力を抑えながら性能を
上げているわけだ。ただし、全員がフル稼働する場合にはシングルプロセッサよりも消費電力は大きくなる。

そういう意味ではCELLは時代を先取りしていて、これまでの主流とまったく異なるアーキテクチャであり、
最大手のIntelでもAMDでもないsony+IBM+東芝が作ったチャレンジングな汎用プロセッサだ。
それがコンピュータの新たな発展を生むかもしれず、そういう意味でも僕はかなり期待している。

Intelも次世代CPUはMany Coreプロセッサとしていく流れのようで、
ここ10年はマルチコアプロセッサが主流となっていくのだろう。
1チップでコアを何十個と組み合わせたりする、専門処理を分散させるなど、
どのような発展を見せていくのか今から楽しみだ。