臆病という病

精神病と呼ばれるものは多々あれど、
意識されない差別と同じくらい恐ろしい、人間固有の病がある。

意識されない差別はそれだけに根深いが、
それと同じように深刻に考えてはこれなかった病気が臆病だ。
名前からして病と名づけられているけれど、
これを治療する人を見かけたことはないし、
治療方法を真剣に考えている人も僕は知らない。
そもそもの問題として、臆病は性格上の傾向性として
処理されてしまっているのではないだろうか。

臆病とは、人間の時間感覚にかかわる病気だ。
恐怖も、その意味では同じカテゴリーに分類されるかもしれない。

例えば痛みや苦しみは現在にまつわる感覚で、
現に今という時間に自分の意識に存在するものだ。
ところが臆病はまだ起こっていない事柄に対し、否定的な意識を呼び起こす。
それがどんなに確率の低いことであっても問題ではなく、
その出来事の結果起こり得る悪い結末だけが問題になる。
(その点、恐怖はどちらかといえば蓋然性の高い出来事に対する感情だ。
ナイフを突きつけられたりとか、命綱なしで高所に立たされたりとか。)

なぜ臆病が生じてしまうのかといえば、
それは悪い未来を思い浮かべてしまう想像力のせいだ。